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zoom RSS 落語の中の言葉166「川柳(誹風柳多留)」

<<   作成日時 : 2017/04/30 20:46   >>

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 落語には時々川柳も出て来る。これまで説明資料として「誹風柳多留」等の川柳をしばしば利用して来た。そこで「誹風柳多留」について少し触れておこうと思う。この句集二十四篇までは柄井川柳の万句合わせから二段階の選別を経たものである。
柄井川柳の万句合わせのことは濱田義一郎氏の説明がわかりやすいので紹介する。

 柄井川柳通称八右衛門、祖父の代から浅草新堀端の竜宝寺(現在台東区蔵前四ー三六)門前町の名主だが、その傍ら宝暦七年(一七五七)四〇歳の時に前句付点者としての活動を開始した。
 その活動とは、まず盛り場の茶見世などにたのんで、「川柳万句合取次」という看板を掛けて投句を募集し、前句付の題、〆切の日、点料一句に付何文というようなことを公示する。題は例えば、
   ×はなれこそすれはなれこそすれ
   ・むつましい事むつましい事
 このような形のを、五題くらい出すと、前句付ファンが応募してくる。しかし直接点者へではなく、地域別の取次へ点料を添えて出すことになっていた。たとえば浅草新堀の若松、市谷の初瀬というような組連が市中にたくさんあって、それが取次をしたのである。
 〆切後に点者は各取次の投句を集めて選をし、入選句を半紙に列記し、句の上に題を示す×○・などの合印を書き、句の下には所属の取次名を示す。それを彫り師・摺り師へ回して、摺り物が出来上ると、入選句に対する景品を添えて取次へ届ける。景品は木綿一反、膳一枚のような家庭用品で、相応する銭でとることもできた。さっき例示した前句への付句、
   ×子が出来て川の字形りに寝る夫婦  (宝暦八・九・二十五 はなれこそすれはなれこそすれ)
   ・碁敵は憎さもにくしなつかしさ   (宝暦十・十二・十五 むつましい事むつましい事)
 これらは、離れこそすれ、睦まじい事という題に付けた句として入選し、作者は何かの景品をもらったのである。
 すなわち点者は、収入は応募句総数×点料であり、支出は紙・印刷・景品・取次や茶見世への謝礼や事務費で、その差額を利益として得る、いわば懸賞文芸業者である。
 川柳の場合は宝暦七年八月の第一回は寄句高わずかに二〇七句、その後十日おきに開いて十二月最終回は一六五三句になったが、一般点者の平均の半分くらいの貧弱さであった。しかし川柳評は好評で着々と寄句高がふえ、五年後の宝暦十二年には一万句を越えて文字通り万句合となり、完全に同業を抜き去ったのである。(濱田義一郎校注『誹風柳多留初篇』)

 ちなみに柄井川柳の収入について下山弘氏は、大坂芳一氏の『季刊古川柳』76号所載「川柳評万句合の収入と支出」にもとづき次のように書かれている。
  賞品代     約七〇・〇パーセント
  摺り物代    約 四・〇パーセント(投稿者に無料配布)
  取次手数料  八・三パーセント(入花料十二文のうち一文と仮定する)
  残額       約一七・〇パーセント
 すなわち、粗利益は売上の約一七パーセントである。一度の興行で一万五千句の投稿があったとして、入花料は十八万文、金貨に換算すると約四十五両。粗利益は七両半ほどになる。これが月に三回だから、月収二十三両くらいになる。
 もっとも、川柳は万句合を毎年秋冬の四ヵ月前後しか行なわず、他の季節には別の方法で点者稼業を行なっていたから、収入金額は季節ごとにちがったことだろう。だが優に中産階級の生活ができただろうと考えられる。(下山弘『江戸古川柳の世界』)

画像   右は「誹風柳多留」二四篇に載せる柄井川柳
 「誹風柳多留」は応募句から柄井川柳が選び、入選句を摺り物にし、その摺り物の中から呉陵軒がさらに撰んだものである。
 柄井川柳は付け句の面白さのほかに、題に対する付け方の面白さも入選基準の一つにしていたと思われる。一方呉陵軒は、題を省略しても意味がよくわかるもので「当世誹風の余情」のあるものだけを撰んでいる。呉陵軒は誹風柳多留初篇の序に次のように書いている。
さみたれのつれつれにあそこの隅こゝの棚よりふるとしの前句附のすりものをさかし出し机のうへに詠る折ふし書肆何某来りて此儘に反古になさんも本意なしといへるにまかせ一句にて句意のわかり安きを挙て一帖となしぬなかんつく当世誹風の余情をむすへる秀吟等あれハいもせ川柳樽と題す于時明和二酉仲夏浅下の麓呉陵軒可有述

  「誹風柳多留」は翌々年明和四年から毎年一冊ずつ刊行され、天保期の一六七篇まで続く。但し三一篇以降は年一冊の形は崩れている。また川柳選になるものは二四篇までで、その後は後人による。岩波文庫は二四篇まで収めている。

 落語の中の言葉で「誹風柳多留」等の古川柳を利用しようとする場合、最も困るのはほとんどの句が解説をしてもらわないと意味がわからないことである。その理由をいくつかあげる。
A、意味のわからない言葉

  ころびがだいやで三味線は引きり   川傍柳初篇
   前田勇編『江戸語大辞典』 引きり 賭博用語、従、副、余技、内職。
   主・正・本技・本職を「だい」「だいや」というの対。天明五年・莫切自
   根金生木「だいがぴんで、ひつきりがソレ六だ、よしか」 

  同趣旨の句に次のものがある。
    ころぶハ上手上手おどるハお下手    誹風柳多留十二篇
    おとり子におどれと留守居むりをいゝ  誹風柳多留十七篇

B、言葉に通常の意味のほかに特殊な意味をもつもの

  伴頭ハ内のは白をしめたがり     誹風柳多留初篇
   『日本国語大辞典』 はじろ 羽白鴨の略。転じて「歯白」にかけて、
   鉄漿をつけていない娘をもさしていう。

  むく鳥が来てハ格子をあつからせ   誹風柳多留初篇
   『日本国語大辞典』 @ムクドリ科の鳥 A江戸の町に出て来た田
   舎もの、またその人をあざけっていう語 B特に冬季、信越地方な
   どの雪国から江戸に出て来た出かせぎ者をいう。

   前田勇編『江戸語大辞典』 @江戸へ出て来た田舎者、またその嘲
   称。文化八年・客者評判記「田舎人、篤実、むくどりとうたふもよしや
   よし原すゞめ」 A椋鳥のように群れをなす人の形容。明和二年・柳
   多留初「むく鳥が来ては格子をあつがらせ」(一説に@とするはいかゞ)

画像 前田勇氏が「@とするはいかゞ」と云うのは、むく鳥とされる人物の画を見ると地廻りであって田舎者ではないからであろう。
  右は山東京伝『新造図彙』(天明九年=寛政元年1789)の椋鳥の画
   くれがたより、多く出て、かうしさきに、まひわたる鳥也云々。

 江戸見物に出て来た人などはおとなしく見ていくであろうが、地廻の素見などは悪口をいっては、いやがられたようである。
二人連れの地廻が仮宅の素見に出たところに

〔つれ〕ちよつと見や、ま正めんにゐるおいらんは、碁ばん娘をなべふたでおつへしやいだといふかたちだぜ、こつちらのしんぞうがアレあくびをすらア、娘や舌を出せといふもんだ〔地廻〕あれあれ今しびれをきらして立った女郎衆は、がうてきひくひ脊だぜ、すゞめのさんりほどあらア〔つれ〕こつちらのよこかほを見や、おそろしく苦労そふたせ、半人のこつぱにんに無心でもいわれたらう〔地廻〕アレ立つてしよく台のしんをきります、じやみをかくさふと思つて気はづかしくぬつだぜ、べちやねへ、大あばたをしやうし紙へしきうつしにしたやうだ、そしておそろしくしやくんだかほた、つもりぞくねへだらふ(後略)(「遊僊窟烟之花」享和二年?)

 『日本国語大辞典』のBについて云うと、ムクドリは渡り鳥ではなく一年中日本にいる鳥である。冬になるとやって来て春に帰るわけではない。むしろ日暮れ時になるとやって来てはうるさいところからむく鳥と云うのであろう。

C、今日ではわからない当時の常識

  三丁目にほハぬ店が三四軒      誹風柳多留二二篇
   
   江戸にて同生業群居する地は、
   本町三丁目、薬種問屋
   大伝馬町一丁目、木綿太物問屋
   小伝馬町の建具工および諸箪笥・長持・挟筥等の工および商人店
     (『守貞謾稿』巻之五)
 
画像
        『江戸名所図会』巻之一 「本町薬種店」

文政七年刊の『江戸買物独案内』には薬種問屋が五〇軒載っているが、約半数の24軒が本町三丁目に集中している。二軒以上薬種店のある町は、本町三丁目以外には、隣の四丁目(4軒)、すぐ近くの本石町三丁目(2軒)、京橋の先の新両替町四丁目(2軒)だけである。一町内に薬種店が24軒もあれば、それ以外の店(匂わぬ店)はわずかであろう。

 その他、わかったように思っても現代風の解釈になっている可能性もある。
   役人の子ハにぎにぎを能覚     誹風柳多留初篇

役人が賄をとることを皮肉った句とよく言われるが、題は「うんのよい事」である。皮肉なのであろうか、やっかみなのであろうか。

 また注意しなければならないのは一種の決まり事があることである。二三例をあげると、
  伊勢屋=けち
    尾かしらの無イかいせやの初かつほ    一七篇
    いせやにかつほつんほうにほとゝきす   二二篇
  信濃もの=大食
    喰イぬいてこよふと信濃国を立チ      五篇
    うづ高くもつたをおしな五はいくい      七篇
    喰うふ事も武勇も真田人にこへ       七篇
  相模女=好色
    間男をつれて相模へにげて行        五篇
    いせ原を置イたで見世がらんかしい     七篇
    百人一首迄がさがみは恋歌也        七篇

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