落語の中の言葉45「足袋屋の看板」

          十代目桂文治「蛙茶番」より

 舞台番を頼んだ建具屋の半ちゃんが来ないので、小僧の定吉を迎えにやると、「舞台番なんて、いけねえ」と大変に怒っていて来ない。定吉がその事を番頭に告げると、
番頭「半公が岡惚れしている娘は、この町内にいるか」
定吉「あたし知ってます。小間物屋のミーちゃん」
番頭「ほう、半ちゃんが惚れてる、できてんのか」
定吉「足袋屋の看板」
番頭「なんだ、その足袋屋の看板てえのは」
定吉「片方しきゃ、できてない」

『守貞謾稿』に足袋店看板の図があり(下図)、次の説明がある。
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江戸は、あるひは屋号、あるひは股引、または大丈夫と書くもあり。股引、必ずたびやにてこれを兼ね製するものなり。大丈夫は、久しく堪へ破れざるを丈夫に比するの俗言なり。すべて今俗、物の久しく堪ふるを丈夫、あるひは大丈夫と云ふ。
 また江戸にては、万事自己は得心のことなれども、先方のいまだその意に応ぜざることを、方言にたびやのかんばんと云ふ。その意は、片方成りて片方いまだ成らずと云ふことなり。


江戸の看板一般について、林美一氏は次のように書いている。
注意しなければならぬことは江戸時代の屋根看板というのは、これ一種(図あり)であって、現在普及しているような、屋根に平行にかざる横長の屋根看板は皆無に近かったということだ。薬種問屋のようにあらゆる形式の看板を一人じめしたような看板だらけの店は、屋根に薬品名を記した横長看板も並べているが、むしろ特殊例と言うべきなのである。

また
次に注意しなければならぬことは看板の文字の書き方だ。(中略)看板は何商売をしているかを一目で客にわからせるのが目的なのだから、何よりもまず職業や商品を大きく目立つように書くのが常識である。(中略)屋号中心の看板で商売になるような店は、料理屋の八百善のように広く名前を売込んだ名物店や、吉原の娼家のような特殊なものだけだ。(中略)越後屋呉服店のような大店でも、看板には大きく「呉服店」と書く。屋号や商標は暖簾や火除けに大きく書くのが例である。(林美一『時代風俗考証事典』)

参考のため『守貞謾稿』から屋根看板の図、『江戸名所図会』から三井呉服店と薬種問屋の図をあげる。
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看板の種類は多いが、建て看板・屋根看板・下げ看板・行燈看板・置き看板(店内・屋外)・掛け看板等が主なるものであるという。

珍しい看板をいくつか紹介しよう。
まず、糒〔ほしい〕の看板
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天和年中、菓子店の看板に、仙台糒と大師流に書たり、俗にいふ道明寺なり、(左図)ほしいとよめたり、元禄のころより、からす二三羽を画がき、本字を失ひ、よめかねるより、わきの方に仙台糒と云判をおして、重言にほしいとす、皆本を失ふ、(曳尾庵『我衣』)

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つぎに質屋の看板
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昔は質屋に看板あり。将棋の駒の形したる板を紐にて釣、その板のうへに質札の反古を、紙の塵はたきの如く束たる物なり。其板をかくる事止て後は、彼塵はたきめきたる物とのみなれり。(中略)或人の曰、昔は謎語のやうなる看板おほくあり。将棋の駒の形なるは、金になる、金銀にかへるなどいふ意ならん歟と(柳亭種彦『用捨箱』天保十二年刊)


判じ物の看板はいろいろあるが、長くなるので次回にしましょう。

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