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zoom RSS 落語の中の言葉163「撒き水−江戸の道」

<<   作成日時 : 2017/02/28 20:28   >>

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   五代目柳家小さん「天災」より

 大屋さんはがさつ者の八五郎を知り合いの心学の先生紅羅坊のところへ話を聞きにいかせる。八五郎は紅羅坊から、たとえ話として、角店の小僧が撒き水をしていてその水がかかったらどうすると聞かれる。角店と限定しているのは通りを歩く人に注意して水を撒いていたが脇道から急に出て来たために水がかかってしまったということで、小僧の不注意ばかりではないという意味であろう。それでも小僧を張り倒して店に怒鳴り込むという。

 江戸では晴れた日に道に水を撒くことは極普通のことであった。と言うよりは必要なことであった。何故なら晴れて風のある日には土埃がひどかったからである。

 見しは昔、江戸に、土風絶ず吹たり。されば龍吟ずれば雲おこり、とら(虎)うそぶけば風さはぐ。かゝるためしの候ひしに、江戸に土風ふけば町さわがしかりけり。(中略)
 然るに江戸あたりに吹土くじりといふ風は、雲の気色もなく音もせずして俄に地より吹立、土をまきつゝんで空へ吹上れば、たゞ黒けぶりのごとし。皆人是を見て、すは火事こそ出来たれ、やけ立けぶりを見よとさはぎてんたうする。町の掟のことなれば家々より手桶に水を入、引さげ引さげ、月行事は先達てはた印を持、火元はこゝやかしことはしりまはる内に、土けぶりはきへてそらごとなりといへば、さげたる桶の手持もなく、はたを巻てかへりしは見てもおかしかりき。 (三浦浄心『慶長見聞集』慶長十九年1614自序)

 そして雨が降れば泥濘(ぬかるみ)である。
 見しは今、江戸町の道雨少しふりぬれば、どろふかふして往来安からず。さるほどに足駄のは(歯)の高きを皆人このめり。(同書)

  この状態は幕末になっても変わっていない。
土薄く水浅くして湿気強し、土ハ灰の如くニて、雨天ニハ泥中を歩むニ異ならず、夏ハ日中の暑、殊ニ烈(はげ)しくて焼が如く、朝夕ハ打て変て涼しく、終日の雨なれバ単衣(ひとえもの)ニてハ凌ぎがたし、冬ハ寒気、若山ニ三倍し、山の手ハ土凍(いて)て、朝ごとに霜柱二三寸立ち、土を高くもちあげ、五時過より凍解にて、木履ならでハ往来成がたし、晴天ニハ風吹ぬ日は少なし、強く吹日ハ土煙り空に漲り、衣服、足袋を汚(よご)し、眼を明て往来なりがたし、江戸人の紺足袋をはき、深笠を被(かぶ)るハ、是が為の設けならむ、又埃り眼鏡と言て、粗悪なる品を三十二銭計ニて、所々に鬻ぎ居れり、出火延焼の大なるも、風に依る故と思わる、風の吹ぬ日ハ火事少く、雨天ニて火事なし、去ながら江戸人が晴天続と風を畏るゝ事、虎狼より甚く、若山人の漏(もる)とハうらはらなり、(原田某『江戸自慢』安政後)

  にわか雨の時など、町人は着物を高く端折り、雪駄は脱いで帯に挟み裸足で駆け出した。泥濘で高価な雪駄を台なしにしない為である。
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  歌川広重の「大はしあたけの夕立」では、男は裸足になっているが履物はわからない。広景「江戸名所道外尽」本郷御守殿前では、右の男の腰に履物が見える。着物の端折り方は女性では臑が出るくらいであるが、男性は褌が見えるほど高々と端折っている。

  ぬかり道つり上げて行美しさ      明和元年川柳評万句合
  夕立にあつてふんどし好きに成    誹風柳多留九篇
  ふりへのこ夕立にあひこまりはて   柳籠裏

 参考:雪駄の値段
 馬琴日記、文政十二年1829五月五日の条
一昼後、おく和、おとみ同道ニて来ル。然ル処、従僕、はき物ヲ玄関小座敷下差越、罷帰り候ニ付、忽地盗れ畢。幷ニ、お百うら付草履、今朝、土岐村内儀はき候而罷出、其後、玄関障子脇江上ゲ置候処、これも盗れ畢。おく和はき物失ひ、迷惑之様子ニ付、四ツやよりとりよせ、おく和、裏付黒天鵞絨はなを付、代七匁、おとみ、同断小形、三匁、右かひ取、遣之。幷に、お百には相形せつた、代三匁、是又かひ取、遣之。(『曲亭馬琴日記』第二巻)

  引用者註:おく和=馬琴の娘、宇都宮藩士渥美覚重後妻 おとみ=おく
  和の継子 お百=馬琴の妻 土岐村内儀=馬琴の男宗伯の嫁路の母
  ちなみに大工の一日の手間銀は平常時三匁、飯料一匁二分である。

  幕末には値上がりしてさらに高くなっている。
新材木町に、六門屋某と云ふ雪踏店、ことに精製の物を売る。価十一、二匁なり。他店は八、九匁。近来、右の六門屋廃し、浅草かや町香取屋精製の物を売る。かつ諸物の高価に准じ、価銀十五、六匁あるひは二十目となる。他店の物十匁ばかり。(『守貞謾稿』巻之三十)
  一方、下駄にはずいぶん安い物もあったようである。
    百出して五そくかわせるにわか雨   誹風柳多留七篇

  御府内の道は堀や川及び河岸地とともに幕府の所有である。堀や川の浚渫は幕府の費用で行ったが、道の補修等は町地であれば町の、武家地であればその場所の武家の負担で行われた。何々新道というのは地主の所有地であるからその地主負担である。補修費用を十分に出せない場末の町や貧乏旗本等の場所には悪路が多かったようである。
寛文八年1668五月二十八日
一町中海道悪敷所ハ道作り掃除可仕候、幷海道江商売物出し置申間敷候、尤ちり・あくた捨置申間敷候
右之趣町中家持ハ不及申、借屋店かり等迄堅相守、少も違背仕間敷候(『江戸町触集成』第一巻)

江戸の昔の道路は、市街地は何と言っても、町々の町内入用で修繕するから、足駄を没する以上な悪路はまずないが、武家地という中に、旗本・御家人の住む場所には、泥濘臍(臑)を没するような悪路があった。いずれも、大道から引っ込んだ往来の少い場所だ。無論幕府から道普請をする地域でもなく、止住する旗本・御家人等には、路面工事の費用がない。それ故に抛却されていたのだ。(三田村鳶魚『江戸の旧跡江戸の災害』)

  五街道は道中奉行が支配したが、御府内の道は道奉行が管理していた。道普請は車止めを伴う場合は町奉行と道奉行の両方に願書を出して行い、小規模の普請は道奉行にだけ願書を出し、普請が終了するとその旨報告している。明和五年1768に係りが道奉行から普請奉行に変わっても同様である。

明和六年1769三月廿一日奈良屋の尋への返答
一惣躰町々ニ而道造仕候節、車留仕度段、町御奉行様へも御願申上候、尤道造一通ニ而車留も不仕候儀ニ候得は、道方御役所斗江御願申上来候、当時御普請方御懸り相成候而も右之通相心得罷在候、御尋ニ付申上候、以上
  丑三月          惣年番名主共 (『江戸町触集成』第七巻)

 奉行から不良個所の修繕を命じられた場合にも、図面つきの願書を出して道普請をしている。修繕を命じられて願書を出さずに行うのは、御成の前日の点検時に指摘された少々の修繕だけである。町年寄奈良屋からの尋ねに対して次のように答えている。
 惣躰町方ニ而道造等儀は、道御奉行様御通り之節、町々ニ而道悪敷所も有之候得は、於場所直ニ被仰付相済候事ニも候哉、当時道方之儀御普請御奉行様御通り掛りニ道悪敷所は、道造候様被仰渡候上ニ而絵図書付を以、右御役所へ相願候哉、御尋ニ付左ニ申上候
一前々道御奉行様御掛之節も、御通掛り道造被仰付、別段御願不申上道造之儀は無御座、併御成御前日御道筋御廻り之節、少々之道高下直し等被仰付候儀は、差掛り候事故、別段ニ相願不申上候、当時道方之儀、御普請御奉行様御掛りニ相成候而も右之趣相替儀無御座候、以上
   明和七寅年1770二月   南北小口年番名主共
   以書付申上候    (同書)

  実例を一つあげておこう。文化三年1806に四谷塩町壱丁目が行った道普請で、当初四十日の工期で願ったが完了せず、二十日間の日延べを申請している。
    乍恐以書付を奉願上候
一四谷塩町壱丁目月行事大助奉申上候、私共町内道悪敷所、手入道作り仕度奉存候、何卒今日より来る七月八日迄、日数四十日の間御用の外、車留の儀被仰付被下置候様、別紙会(絵)図面を以奉願上候、何卒御聞済被仰付被下置候様、偏に奉願上候、以上
    文化三寅年五月廿八日
              四谷塩町壱丁目月行事
                   願  人  大   助
                   五人組  利右衛門
                   名  主  茂 八 良
                    外御用に付、代
                        甚  八
   御普請方
    御役所様

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   乍恐以書附を御訴奉申上候
一四谷塩町壱丁目月行事大助奉申上候、私共町内道悪敷場所、手入道作り仕度奉存候に付、日数四十日限御用の外車留願上候へは、願の通被仰付、難有仕合に奉存候、然る所普請出来兼候に付、猶又弐十日の御日延願上、此節普請出来仕候に付、今日車留取払申候、此段御訴奉申上候、以上
    文化三寅年七月廿四日
              四谷塩町壱丁目月行事
                   願  人  大   助
                   五人組  利右衛門
   御普請方
    御役所様      (『四谷塩町一丁目御用留』)

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