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zoom RSS 落語の中の言葉189「てんぷら・下」

<<   作成日時 : 2018/10/31 20:17  

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 次に江戸のてんぷらそのものについて考えてみたい。
 京山の話では、天明初年の頃の江戸には胡麻揚げの辻売りはあったが、魚肉を使ったものはなかったという。当時の胡麻揚げ・てんぷらとはどんな料理だったのであろうか。

 小説等から拾うと
されば二間茶屋も是が為に劣(おくれ)を取り、両国さびれて中洲へ引ケ、商人居並て通りせまく煮売煮肴綿飴玉子焼胡磨揚西瓜の立売桃真桑瓜餅菓子干菓子の家台見世には買喰の族蟻の如くに集り、食物過ては腹を下し食傷の種を求む、云々(『中州雀』安永六年1777自序)

丁稚は、金七両二分、間男の首代ほどもらつて、ぶるぶるふるへてばかりいたりしが、茶碗に水を一ぱい呑んで、よふよふ胸が落ち着き、先、二分が銭を買つて、通り丁のほうへ出かけ、いつぞや四文銭を一文くすねて、栄螺のてんぷらを一つ買つて食いしより、今に忘られず、いつぞはいつぞはと思ひしも、今宵こそ本望を達せんと、まづ三百が買い、おもいれ食つてみた所が、口はねばねばする、云々(『江戸春一夜千両』天明六年1786刊)

市中の肴は板台のうへにおどり、勘定の外のなすびはあわれ土足に踏つぶされ、腹のきたつた小でつちは屋たひ見せのごまあげに出かゝつた鼻をすゝりこむ、云々(『虚実(うそまこと)情の夜桜』申のはつ春、天明八年1788か寛政十二年1800)

誠つくさは玉子さへ焼は四角な屋台見世、天麩羅胡麻揚の匂にはをり介丁稚のこゝろを迷はし、おでゝこの一幕には使の口上をわすらしめ、生捕に亀山のばけ物には江戸見物も足をとゞめ、腰の巾着はむなしく髪結所のぶらぶらものとなり、云々(『一向不通替善運(かはりせん)』刊記天明八年1788実は寛政六年1794刊)

 胡麻揚げやてんぷらは丁稚や武家奉公の中間に似合いの食べ物であったらしいことは解るが、胡麻揚げ・てんぷらそのものはわからない。江戸時代の料理書を見たが、てんぷらの元になった胡麻揚げについての記載は見つからなかった。てんぷらについては少々記載があった。それにより考えてみる。

*てんぷらの具
 「守貞謾稿」には「惣じて魚類に温飩粉(うどんこ)をゆるくときて、ころもとなし、しかる后に油揚げにしたるを云ふ。菜疏の油揚げは江戸にてもてんぷらと云はず、あげものと云ふなり」とある。しかし、『料理 歌仙の組糸』(寛延元年1748刊)では菊の葉・牛蒡・蓮根・長いもの油揚げも「てんふら」と呼んでいる。また『新撰献立部類集』下(安永五年1776刊)には、山椒の実・葉、蓮、むき胡桃、菊の葉、長いもの「てんふら」が載っている。
 次にあげる鍬形寫ヨ画「近世職人尽絵詞」(文化四年1807?)の天麩羅屋台の山東京伝の詞書きにも「うるまいもの、あぶらに、あけたるも候、たこの入道に、うとむのこの、ころもきせたるも、候そ」とある。「うるまいも」とは琉球芋すなはち薩摩芋である。現今でも野菜を揚げても天麩羅と呼んでいる。「守貞謾稿」の説は疑問である。
画像

*てんぷらの料理法
○『料理 歌仙の組糸』(各月三つの二汁五菜又は二汁七菜の献立をあげている。三つの内一つは精進。合計三十六なので歌仙と名付けている)には、十月の献立の中に
  茶碗 鯛切身
      ○てんふら
      かけしほ
        とうからし

○印については説明がある。
てんぷらは何魚にても温飩(うんどん)の粉まぶして油にて揚げる也。但前にあるきくの葉てんふら、又牛蒡、蓮根、長いも其外何にてもてんふらにせんには、温飩の粉を水醤油とき塗付て揚げる也。常にも、右之通にしてもよろし、又葛の粉能(よく)くるみて揚るも猶宜し
とある。「但前にあるきくの葉てんふら」とあるのは、九月の精進の献立の中に
  長皿 きくの葉
      てんふら
      結ひそうめん
         油あけ
とあるのを指す。

○『料理早指南』初篇(享和元年1801序)の即席料理の部
  小鯛 てんふら  かしら落しほねぬき くずのこ付て油にて上る

  鰹 てんふら   身をくづし ほねとも まぜて たゝき丸め 油にて上る
      大こんおろし
       生せうゆ

○『料理早指南』三篇山家集(享和二年1802刊)の卓袱料理之部
てんぷら 鯛のすり身に玉子と葛の粉すりまぜ ぎんなんを種にして包み こし高まへぢうの形にして油にてあげ味つける

○『素人包丁』初編(享和三年1803刊)の鰯を使った料理の一つに
鰯てんぷら 
首をとり黒きわたをよくとりて 布巾の類にて水気をとり摺鉢へ入ほねともよくすりて程よくとり こまの油にてあげる
 わりねき せり みつば さゝがきごぼう みづな
是等の中にて見合つかふべし せうが・さんせう 抔にて出す

 以上の僅かの例を見ただけでも「今日の天麩羅」とは違う様々な料理を当時は「てんぷら」という名で呼んでいる。

*串
 大久保洋子監修『江戸っ子は何を食べていたか』には
屋台の天麩羅はネタを串に刺して揚げ、大皿に並べて売られていた。客は好きなのを選んで、丼に入ったたれにつけて食べた。江戸中期以降、醤油や味りんは普及していたので、このたれは現在の天つゆに近い味だったと考えられている。
  とある。
串をさして揚げていたのかについては、絵画資料を見る。
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  北尾政演(まさのぶ)画「江戸春一夜千両」天明六年1786
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  歌川広重「東都名所高輪廿六夜待遊興之図」天保1830-43後期の部分
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  歌川国芳「園中八撰花・松」安政六年1859
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  一恵齋芳幾画「江戸久居計」文久元年1861

「近世職人尽絵詞」は串をさしたものもあり、刺さないものもある。「江戸春一夜千両」「東都名所高輪廿六夜待遊興之図」「江戸久居計」はよくわからないが、串は確認できない。「園中八撰花・松」は屋台ではないが、てんぷらに串は刺されていない。そして室内なのに箸は使わず楊枝を使っている。
 また「江戸久居計」と「高輪廿六夜待之図」には筒状のものに串を入れて置いてある。川柳にも
  天ぷらの店に蓍木(めとぎ)を建てゝ置   誹風柳多留一二八篇
とある。串を刺してあげたものもあったであろうが、串は刺さずに揚げて、客が串を使っててんぷらを刺して食べたのではなかろうか。江戸時代のてんぷらは箸ではなく串や楊枝で刺して食べるものだったらしい。

*味付け・天つゆ等
『料理 歌仙の組糸』の鯛の切り身のてんぷらには、「かけしほ(塩)とうからし」、『料理早指南』の即席料理の部の鰹のてんぷらに「大こんおろし 生せうゆ」とある。『歌仙の組糸』にはうどん粉を水醤油で溶いて塗りつけるともあり、「江戸春一夜千両」には調味料らしきものが見えない。それ以外のもには大きな丼のようなもの(「園中八撰花・松」は小さい器)が置かれている。天麩羅をつけるための汁を入れるにしては容器が大きすぎるように思う。屋台で売るてんぷらであれば、そのまま食べられるようにタネか衣に味を付けた方が便利であろう。あの大きな器には何が入っていたのであろうか。

 また大根おろしについては、松亭金水『閑情末摘花』(天保己亥十年1839)に
娘の門付け浄瑠璃に母親が付き添ってようよう暮らしている母娘が帰り道で

娘(さと)「アレ彼所(あすこ)に天麩羅があるから、あれを買つてお出でな、モウ仕舞ひ際だから負けてくれるヨ、早くお買ひナ。」(中略、母)残りしものを買ひ集め、竹皮につゝみて持つて行く。(中略、家に帰り)
さと「慈母様(おつかあさん)、お茶が沸いたからお飯(まんま)をお上り、オヤオヤ天麩羅屋はマア何様(どう)しンだらう、大根卸をよこさないねえ、表の八百屋へ往つて来よう。」母「ナニサ大根も何もいらないわナ、そして八百屋ぢやア寝たヨ。」ト、いふ内お里は駆出し、八百屋を起して大根の折れたのを買つて来り、隣の老婆が家にある、山葵卸を借りて大根をおろし、さと「サアお上り、卸しをかけると、何様(どんな)に甘(うま)いか知れないわネ。」
  とある。天麩羅屋では大根おろしを添えて売っていたようである。また「大根おろしをかけると」とだけ云っているので天麩羅に味が付けてあった可能性もある。江戸時代の大根は現在の青首大根とは違い辛みが強かったようである。『歌仙の巻糸』には「とうからし」とあり、『素人包丁』には「せうが(生姜)さんせう(山椒)」とあって、大根おろしも辛みを賞翫したのではなかろうか。

 ところで「園中八撰花・松」の天麩羅は角(つの)のようなものの出ているのと出ていないものとがある。タネの違いと思われるが、いずれも「今日の天麩羅」に比べてツルリとしている。今日ではグルテンが形成されないように冷水を使い、あまりかき混ぜないようにしているが、江戸時代のころもは現在よりずっと濃かったか、グルテンの形成がすすむ様によくかき回していたかであろう。グルテンを多く含む衣とあまり含まない衣では、時間がたった場合の味の劣化に差があるのかどうか、実験していないので分からないが、現代では唐揚げの弁当はあるがてんぷらの弁当は見かけない。そんなことが気になるのは胡麻揚げには屋台売りの他に振売りがあったからである。『吉原十二時絵巻』に次の画がある。
画像
  これは鍬形寫ヨ画山東京伝詞の「吉原十二時絵詞」の写しで、国立国会図書館の近代デジタルコレクションに公開されている。
 いずれにせよ江戸のてんぷらは「今日の天麩羅」とは大分違っていたようである。現在の天麩羅は揚げたての味をよくすることに特化したもののように思われる。

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